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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)221号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 主位的取消事由について

1 成立に争いのない甲第四号証(米国特許第三八二四七五二号明細書。第一引用例。)によれば、第一引用例には、第一引用例記載の建物の概略、使用目的及び車路の傾斜について次のとおりの記載、図示があること並びにこれらの記載、図示以外には、車路の傾斜に関する記載はないことが認められる。

(一) 多数階の建物に於て、……(中略)……建物のベース部の付近より上方に延在し、中心コアの周囲を複数の旋回回数巻走する螺線状の床路とを含み、そして該床路は、進入車両と外出車両のための二車線の車路と、少なくとも建物の外側に臨む車路側に車両を駐車するためのスペースとを提供するに足る十分な幅を有し、そして更に前記螺線状床路の最上旋回部の上方に複数階より成る居住スペースを提供する(甲第四号証訳文三頁一八行から二七行まで、同一二頁本文一行から一〇行まで。いずれも、「侵入」とあるのを「進入」と訂正。)

(二) 駐車スペースでは、構造物内を上方(又は下方)に旋回するような一般に螺線状に配置された単一の二車線の車路を設けるだけでよく、(甲第四号証訳文二頁三三行から三五行まで。)

(三) 先ず図1(本判決別紙第一引用例図面の図1。以下同様。)を参照すると、同図はほとんど説明を要しないほどに自明である。図示の建物は互いに平行な二対より成る四辺の相対的に長い側部1、1及び2、2を有している。これら側部は菱形のパターンを形成し、そして側部1、2が仮想上収束する頂点は、相対的に短いフラツトな側部3、3、4、4によつて構成されている。(甲第四号証訳文五頁二七行から三一行まで。)

(四) 他の図面、特に図2、を参照すると、……(中略)……これらの入口9及び出口9Aは、建物の内部を周回しながら、例えば図8中の参照番号11で表示される最上階の駐車レベルに達するまで延びる二車線の車路で、全体が参照番号10で表示されている傾斜路、への接近路となつている。傾斜路10は、図8に示す様に、連続的に傾斜する様に構成してもよい。(甲第四号証訳文六頁一〇行から一八行まで。)

(五) 傾斜路は長い方の側部1及び2に対しほぼ平行な所ではストレートに、また短い方の側部3及び4に対応する位置では湾曲状に形成されている。短側部3の位置に対応する傾斜路の二ケ所の急カーブは、例えば参照番号12の位置で示す様に、傾斜路のセンターラインの半径によつて規定され、(甲第四号証訳文六頁二二行から二六行まで。)

(六) 駐車ベイ全体について言えることは、車路は少なくとも頂点の周囲で傾斜しているが、路床と個々の各ベイの床との間のズレは出つ張り部を平坦に形成することにより極めて小さくなり、ベイは水平な床面を有することができる。(甲第四号証訳文九頁一一行から一四行まで。)

(七) 螺線状の床路(甲第四号証訳文一頁本文七行から八行まで。)、螺線状床路(甲第四号証訳文三頁三四行から三五行まで。)、螺線状通路10(甲第四号証訳文九頁二八行から三〇行まで。)、螺線状の車路10(甲第四号証訳文一〇頁二三行。)。

(八) 本判決別紙第一引用例図面記載のとおりの図面(甲第四号証末尾の図面の一部。)

図8は長手方向に於ける正面断面略図である(甲第四号証訳文五頁一四行目。)

右図8には、下から一層目と二層目の車路のうち、図の奥側を左から右へ上る傾斜路が、シヤフトの陰の部分では点線で、陰でない部分では実線で、図の手前側を右から左へ上がる傾斜路が点線で、いずれも等傾斜の直線をなすように図示されている。

2 原告は、第一引用例には「連続状の傾斜を有する車路が、長側部1、1、2、2に沿つた部分では、ほぼ等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜平面状の直進部に、短側部3、3、4、4に対応する部分では、不等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜曲面状の直進部に、それぞれ形成され、更に両直進部を結合するコーナー部を傾斜曲面に形成すること」が記載されていると主張する。

(一) 第一引用例には、前記1(一)、(二)、(七)のとおり、螺線状の床路、螺線状床路、螺線状通路、螺線状の車路、との用語が使用され、前記1(四)のとおり、全体が参照番号10で表示されている傾斜路との記載があり、前記1(八)のとおりの図示があるが、前記1(二)の「一般的に螺線状に配置された」との記載、前記1(四)の「傾斜路10は、図8に示す様に、連続的に傾斜する様に構成してもよい。」との記載及び同1(六)の「車路は少なくとも頂点の周囲で傾斜しているが、」との記載から見ると、第一引用例記載の車路は、概括的にみて螺旋状(「螺線状」とあるのは「螺旋状」と同じ意味と認められる。以下同じ。)のものであるにすぎず、必ずしも、厳密な意味で連続状の傾斜を有するものに限定されるものではない。しかし、右1(四)の「傾斜路10は、図8に示す様に、連続的に傾斜する様に構成してもよい。」との記載、同1(六)の「車路は少なくとも頂点の周囲で傾斜しているが、」との記載によれば、第一引用例記載の車路は、連続状の傾斜を有するものである場合を含むものと認められるから、その意味で、第一引用例には「連続状の傾斜を有する車路」が記載されているということができる。

(二) 第一引用例の前記1(五)のとおりの記載並びに別紙第一引用例図面の図3、図4及び図10によれば、長側部1、1、2、2に対応する部分の傾斜路は直進部として形成されているが、短側部3、3、4、4に対応する部分の傾斜路は湾曲状であり、直進部ではないことが認められる。

もつとも、別紙第一引用例図面の図13及び図15には、短側部3、3、4、4に対応する部分の傾斜路が直進部のように図示されていることが認められる。

したがつて、第一引用例には、「長側部1、2に沿つた直線状の傾斜路と短側部3、4に対応する湾曲状の傾斜路から構成される点」と共に「長側部1、1、2、2に沿つた部分では直進部に、短側部3、3、4、4に対応する部分でも直進部に形成されていること」が記載されているものと認められる。

(三) 第一引用例の螺旋状の車路は、別紙第一引用例図面の図3に図示された車路を平面的にみて一周する間に、車路の内側路縁においても外側路縁においても建物の一階層分の高さだけ高低差が生ずるが、車路が平面的にみて一周する間の路縁の長さは外側路縁の方が長いから、連続状の傾斜を有する車路であれば、少なくともその一部に内側路縁と外側路縁の傾斜が異なる傾斜曲面状の部分があるものと認められる。

しかし、第一引用例の車路の傾斜についての前記1の(一)ないし(七)の個所には、車路の内側路縁と外側路縁の傾斜が同じか異なるか、即ち、その部分の車路が傾斜平面状か傾斜曲面状か、を明示する記載はなく、それを示唆する記載もない。

また、前記1(八)のとおり、第一引用例の図8には、下から一層目と二層目の車路のうち、図の奥側を左から右へ上る傾斜路が、シヤフトの陰の部分では点線で、陰でない部分では実線で、図の手前側を右から左へ上がる傾斜路が点線で、いずれも等傾斜の直線をなすように図示されている。もし、この等傾斜の直線が、車路の内側路縁と外側路縁とを見透して精密に図示されたものであれば、この部分に相当する車路が、傾斜平面状であることを示すものといわなければならない。

しかし、別紙第一引用例図面の図3と図8とを対比すると、図8の下から二層目と三層目の、両端の、各端から二本目の柱と三本目の柱の間の床は短側部3の位置の車路にあたり、図8の中央の縦にとおるシヤフトの陰の部分は短側部4の位置の車路にあたるものであることは明らかであるところ、短側部3の位置の車路が傾斜していることは何ら図示されておらず、また、原告の主張によればあるはずの、短側部4の位置の車路の内側路縁と外側路縁の不等勾配も図示されていないことに、前記1(八)のとおりの、図8は長手方向に於ける正面断面略図であるとの記載、同1(四)のとおりの、傾斜路10は、図8に示す様に、連続的に傾斜する様に構成してもよいとの記載を合わせ考えると、図8は、傾斜路10の状態を正確に示しているものではなく、傾斜路に関しては、それが連続的に傾斜していることを概略的に図示するに過ぎないものと認められる。

したがつて、第一引用例の図8に、第一引用例の車路の内側路縁と外側路縁の傾斜が同じか異なるか、即ち、その部分の車路が傾斜平面状か傾斜曲面状か、を明示する図又は、それを示唆する図示があるということはできない。

第一引用例のその他の個所には車路の傾斜に関する記載がないことは、前記1冒頭に認定のとおりである。

よつて、第一引用例に、車路が、「長側部1、1、2、2に沿つた部分ではほぼ等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜平面状の」直進部に、「短側部3、3、4、4に対応する部分では、不等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜曲面状の」直進部に形成されることが記載されているものとは認められない。

(四) 前記(二)に認定したとおり、第一引用例には、短側部3、4に対応する部分の車路が、湾曲状のものと直線状のものの二つの態様が記載されているところ、湾曲状のものの場合には、1、1、2、2に沿つた直進部と3、3、4、4に対応する部分の直進部の両直進部を結合するコーナー部が存在し得ないことは明らかである。

また、短側部3、4に対応する部分の車路が直線状のものの場合には、車路を観念的に区切つて、両直進部の結合部にコーナー部を特定することは可能であるが、そのコーナー部の前後の車路が、ほぼ等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜平面状であるとも、不等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜曲面状であるともこれを限定する記載は第一引用例にないことは右(三)のとおりであるから、コーナー部が傾斜曲面であると限定する記載も第一引用例にはないものと認められる。

よつて、第一引用例に、車路の両直進部を結合するコーナー部を傾斜曲面に形成することが記載されているものとは認められない。

3 以上のとおりであるから、第一引用例には「連続状の傾斜を有する車路が、長側部1、1、2、2に沿つた部分では、ほぼ等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜平面状の直進部に、短側部3、3、4、4に対応する部分では、不等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜曲面状の直進部に、それぞれ形成され、更に両直進部を結合するコーナー部を傾斜曲面に形成すること」が記載されていて、本件審決は、第一引用例記載の車路のそのような特徴を看過誤認したとの原告の主張は認められない。

したがつて、請求の原因二のとおりの本件発明と第一引用例記載のものとを対比して、第一引用例の「車路は不等勾配に形成された内外の路縁をもつ傾斜曲面を有することを示唆してはいるものの、車路に傾斜平面状の直進部を意図的に導入し、三部の面を組み合わせたものでない。」点において本件発明と相違しているとした本件審決の認定判断は、相違点でないものを相違点と誤つて認定し、一致点を看過誤認したものであるとする原告の主張は認められない。

よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の主位的取消事由は理由がない。

三 予備的取消事由について

1 成立に争いのない甲第八号証(米国特許第一四七二〇三一号明細書。第五引用例。)によれば、第五引用例には、第五引用例記載の建物の概略、使用目的及び車路の傾斜について次のとおりの記載、図示があること並びにこれらの記載、図示以外には、車路の傾斜に関する記載はないことが認められる。

(一) ……螺線状の保管領域と、長手方向に二車線の通行路を備えしかも全長にわたつたあらゆる点において前記二車線の両通行ラインの横方向にも通行できる自由度を有する、側方に位置する螺線状の通行領域とを形成している多ターン式の螺線状フロア、及び……(中略)……配設された上記の支柱、以上の螺線状フロアと支柱とから成る建物。(甲第八号証訳文五頁クレーム範囲1、同2。類似の記載は同クレーム範囲4、同5、同6にもある。)

(二) コーナー領域を有すると共に、螺線状の保管領域と、横方向にも通行できる自由度を有し、長手方向に二車線の通行路を備えた側方に位置する螺線状の通行領域とを形成している多ターン式の螺線状フロアから成る建物であつて、同建物の該コーナーに螺線状の一連のほぼ水平の領域と、同コーナー領域を接続する横方向にほぼ水平の傾斜路とを形成すべく、該保管領域は該通行路(の螺線)からはゆがんだ状態でしかも同進行領域に併合された状態で形成されている、以上の如く構成される上記建物。(甲第八号証訳文五頁クレーム範囲3)

(三) 本発明は、平均的なドライバーが自身の車両及び他のドライバーの車両に対する安全を確保しながら、自分の車両を駐車空間より出入りできる様に、ほぼ通常の道路における交通に近い状態の下で車両の取り扱い及び保管を容易にする様に構成された建物を提供することである。(甲第八号証訳文一頁本文二五行から二九行まで。)

(四) 本発明の第一の態様では、これらの効果は、建物の最下位からその最上位にわたつて同建物の包囲壁10の内部に、通行の点で連続的なヘリカル(螺線)フロアを形成すると共に、同ヘリカル部分に所要のヘツドルーム(車両頂部と天井との間の余裕空間)を提供するに足る十分な勾配を与え、更に側方の寸法は車両の運転にとつて容易且つ安全な傾斜度、即ち望ましくは平均的な車両及び運転者がハイギアでなんとか通行できるに足る低い傾斜度、を確保するに足るよう十分に大きくしてある。……(中略)……ヘリカル・フロアには壁部10に近接したところに点線の長方形で表示される様な車両のための保管領域が形成され、そして同領域は保管用車両で占められていない時には車両通行用の領域としての利用が可能であり、以下に述べる主通行領域の補足領域となつている。(甲第八号証訳文二頁一六行から三一行まで。)

(五) 保管領域を最大に確保すべく建物が長方形で、もしフロアが正確な螺線状に形成されているとすれば、その建物の互いに対向するコーナー部の近くのX―Xの所にある車両は傾斜面に対して、もしブレーキがセツトされていない場合には、重力によつて壁部10より移動してしまう恐れのある関係にある事は明らかである。この様な事態を回避するために、建物の厳密な螺線構造にユガミを持たせることにより同建物の各コーナー部の領域18を水平な状態に形成してもよい。即ち、同領域18にその半径方向の対角線が螺線の一列状の母線と同じ高さとなるようにユガミを与える。そこで、領域18間を接続する保管領域19についても、その厳密な螺線構造に変形を加え、横方向においては水平に形成、一方長手方向においては近傍のプラツトフオームつまり空間18を互いに接続する様な高さに設定することにより、その長さ全体にわたつてほぼライン20上にて(通行領域の)螺線15と接続(融合)する様に構成してもよい。(甲第八号証訳文三頁二〇行から三三行まで。)

(六) 本明細書では、「螺線(helix)」と云う用語はその最も広い意味において使用され、厳密な意味の螺線には限定されない。(甲第八号証訳文四頁一三行から一四行まで。)

(七) 本判決別紙第五引用例図面記載のとおりの図面(甲第八号証末尾の図面。)右図面中図2には、保管領域を含む平面的に見て矩形のフロアの内外の縁部、即ち、フロアの外側縁部と仕切り16で示される内側縁部が、いずれもほぼ直線状で、不等勾配に形成されていることが図示されている。

2 原告は、本件審決は、第五引用例の車路については、「フロアが矩形状に螺回する車路を有する傾床型自走式立体駐車場」とのみ認定したが、第五引用例には、車路が不等勾配に形成された内外の路縁をもつ二対の傾斜曲面状の直進部と、これら直進部の勾配を整合するための傾斜曲面をもつ四つのコーナー部が記載されているから、本件審決の前記認定はこの点を看過誤認していると主張する。

(一) 右1認定の事実によれば、第五引用例には、本件審決の認定のとおり「フロアが矩形状に螺回する車路を有する傾床型自走式立体駐車場、及びアウトサイドパーキングエリヤには、車両が車長方向に傾斜されずに駐車されるように緩勾配を車幅方向に対応する方向に対し一方的に付与した、傾床型自走式立体駐車場におけるフロア構造」が記載されているもので、その車路は、本件発明のように傾斜平面状の直進部を含む三種の部分によつて構成されていないと認められる。

(二) 別紙第五引用例図面中の図2には、保管領域を含むフロアの内外の縁部、即ち、フロアの外側縁部と仕切り16で示される内側縁部が、いずれもほぼ直線状で、不等勾配に形成されていることが図示されていることは前記1(七)のとおりであり、フロアの外側部分にあたる保管領域のうち、各コーナー部の領域18を水平な状態に形成し、領域18間を接続する保管領域19についても、横方向においては水平に形成し、一方長手方向においては近傍のプラツトフオームつまり空間18を互いに接続する様な高さに設定し、その長さ全体にわたつてほぼライン20上で通行領域の螺線15と接続する様に構成してもよいことは前記1(五)のとおりであるから、ライン20とフロアの内側縁部の間の通行領域のうち、矩形の辺の中央付近に着目すれば、車路が不等勾配に形成された内外の路縁をもつ二対の傾斜曲面状の直進部と解することができる。

また、通行領域のうち、矩形の辺の中央付近以外の部分は、螺旋状の傾斜路の一部であり、右のようにみた場合の傾斜曲面状の直線部の隣接するものを接続する機能を有していることは明らかであるから、直進部の勾配を整合するための傾斜曲面をもつ四つのコーナー部と表現することができる。

しかしながら、第五引用例は、フロア全体を連続した螺旋状フロアとしているものであり、通行領域を意図的に右のように直進部とコーナー部に区分してその形状を限定しているものとは認められないから、本件審決が、第五引用例について「フロアが矩形状に螺回する車路を有する傾床型自走式立体駐車場」と認定し、車路が不等勾配に形成された内外の路縁をもつ二対の傾斜曲面状の直進部と、これら直進部の勾配を整合するための傾斜曲面をもつ四つのコーナー部が記載されている旨認定しなかつたからといつて、本件審決の認定に看過誤認があつたということはできない。

なお、前記1(五)に、「建物の厳密な螺線構造にユガミを持たせることにより同建物の各コーナー部の領域18を水平な状態に形成してもよい。」とされているコーナー部は、右1(五)の記載全体を別紙第五引用例図面と対比すれば、通行領域のコーナー部ではなく保管領域のコーナー部であるから、本件発明の車路の一部を形成するコーナー部とは全く別の部分を指すものである。

更に、第五引用例には、傾斜平面状の直進部の車路が記載されていないから、第五引用例記載のものは、「フロアが矩形状に螺回する車路を有しているが、その車路は、本件発明のように傾斜平面状の直進部を含む三種の部分によつては構成されていない。」との本件審決の認定判断に、不十分、不正確な点はない。

なお、原告は、本件発明の車路の構成中「ほぼ等勾配」の文言の「ほぼ」の語はかなりあいまいな語であり、この語の解釈を拡大していけば結局のところ不等勾配となるのであり、そうなればまさしく第五引用例及び第六引用例に記載された車路の構成となる旨主張するが、前記、甲第八号証によれば、第五引用例には、ほぼ等勾配に形成された内外の路縁を持つ車路は記載されていないことは明らかであり、右主張は認められない。

3 成立に争いのない甲第九号証(米国特許第一八六三七五三号明細書。第六引用例。)によれば、第六引用例には、第六引用例記載の建物の概略、使用目的及び車路の傾斜について次のとおりの記載、図示があること並びにこれらの記載、図示以外には、車路の傾斜に関する記載はないことが認められる。

(一) 本発明は、一般道路のレベルから最上端まで連続状のフロアが形成された一階以上の建物の特殊な構造に関する。本発明の主要目的はフロアの上階への上昇が一定の(車両による上昇が)容易な勾配となる様にフロアを構成することである。(甲第九号証訳文一頁本文一行から四行まで。)

(二) 図1に図示の建物はその正面部分と側方部分の一部が切り取られ、更にその屋根が外された状態で示されている。フロア10の上昇は入口11の内側より直ちに開始し、参照番号12のところに破断状態で示される上方階に段階的な勾配で延在している。(甲第九号証訳文一頁本文一四行から一七行まで。)

(三) 建物の最下階より最上階に上昇すると共に外側の壁部と複数本の中心支柱で支持される連続状の螺線フロアより成るフロア構造であつて、各回旋(螺線の一回転分に相当する)のフロア空間は同建物の平面とほぼ同じ広がりを有すると共に、直線に沿つて分離された互いに異なる高さの部分から成る、上記のフロア構造。(甲第九号証訳文二頁本文一行から五行まで。クレーム範囲1。これと一部を同じくする記載は、甲第九号証訳文二頁及び三頁のクレーム範囲2ないし6中にもある。)

(四) 本判決別紙第六引用例図面記載のとおりの図面(甲第九号証末尾の図面。)

4 原告は、本件審決が、第六引用例の車路について、「建物の最下階より最上階に上昇すると共に外側の壁部と複数本の中心支柱で支持される連続状の螺旋フロアより成るフロア構造」と認定したが、第六引用例には、車路が不等勾配に形成された内外の路縁をもつ二対の傾斜曲面状の直進部と、これら直進部の勾配を整合するための傾斜曲面をもつ四つのコーナー部が記載されているから、本件審決の前記認定はこの点を看過誤認していると主張する。

(一) 右1認定の事実によれば、第六引用例には、本件審決の認定のとおり「建物の最下階より最上階に上昇すると共に外側の壁部と複数本の中心支柱で支持される連続状の螺線フロアより成るフロア構造」が記載されているもので、その車路は、いずれも本件発明のように傾斜平面状の直進部を含む三種の部分によつて構成されていないと認められる。

(二) 別紙第六引用例図面中の図1には、傾斜したフロアの外側縁部と中心支柱14の列で示される内側縁部が、いずれもほぼ直線状であることが図示されているが、外側縁部と内側縁部の勾配がほぼ等しいか不等勾配であるかは、明らかではない。

また、第六引用例は、フロア全体を連続した螺旋状フロアとしているものであり、フロアを直進部とコーナー部に区分してその形状を限定しているものではない。

したがつて、本件審決が、第六引用例について「建物の最下階より最上階に上昇すると共に外側の壁部と複数本の中心支柱で支持される連続状の螺線フロアより成るフロア構造」と認定し、車路が不等勾配に形成された内外の路縁をもつ二対の傾斜曲面状の直進部と、これら直進部の勾配を整合するための傾斜曲面をもつ四つのコーナー部が記載されている旨認定しなかつたからといつて、本件審決の認定に看過誤認があつたということはできない。

更に、第六引用例には、傾斜平面状の直進部の車路が記載されていないから、第六引用例記載のものは、「フロアが矩形状に螺回する車路を有しているが、その車路は、本件発明のように傾斜平面状の直進部を含む三種の部分によつては構成されていない。」との本件審決の認定判断に、不十分、不正確な点はない。

なお、原告は、本件発明の車路の構成中「ほぼ等勾配」の文言の「ほぼ」の語はかなりあいまいな語であり、この語の解釈を拡大していけば結局のところ不等勾配となるのであり、そうなればまさしく第五引用例及び第六引用例に記載された車路の構成となる旨主張するが、前記、甲第九号証によれば、第六引用例には、ほぼ等勾配に形成された内外の路縁を持つ車路は記載されていないことは明らかであり、右主張は認められない。

5 原告は、第五引用例あるいは第六引用例記載の二対の傾斜曲面状の直進部のうち、一対の直進部に本件発明の特許出願前から周知であつた傾斜平面状の直進部を適用すれば、本件発明の車路と同様の構成となり、その設計変更は、第五引用例及び第六引用例の記載から容易に想到し得るものであり、本件発明の車路の構成要件は容易に想到し得ないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし、第六引用例に、車路が不等勾配に形成された内外の路縁をもつ二対の傾斜曲面状の直進部が記載されているか否かは明らかでないことは、右4(二)に判断したとおりであるから、第六引用例の記載と本件発明の特許出願前から周知であつた傾斜平面状の直進部とから本件発明の車路の構成要件は容易に想到し得るものである旨の原告の主張は認められない。

また、第五引用例に記載の通行領域のうち、矩形の辺の中央付近に着目すれば、車路が不等勾配に形成された内外の路縁をもつ二対の傾斜曲面状の直進部と解することができ、矩形の辺の中央付近以外の部分は、直進部の勾配を整合するための傾斜曲面をもつ四つのコーナー部と表現することができることは、前記2(二)に判断したとおりである。

しかしながら、第五引用例は、フロア全体を連続した螺旋状フロアとしているものであり、通行領域を意図的に右のように直進部とコーナー部に区分してその形状を限定しているものではないことも前記2(二)に判断したとおりであり、傾床型自走式立体駐車場の車路において傾斜平面状の直進部が本件発明の特許出願前から周知であつたとしても、前記当事者間に争いのない本件発明の要旨から明らかな、矩形状に螺回する車路を、一対の相対向する傾斜平面状の直進部と、一対の相対向する傾斜曲面状の直進部と、前記各直進部の勾配を整合する傾斜曲面をもつ四つのコーナー部とに意図的に区別して、これらを組み合わせて形成する本件発明の車路の構成は、第五引用例の記載と本件発明の特許出願前から周知であつた傾斜平面状の直進部とから本件発明の車路の構成要件は容易に想到し得るものである旨の原告の主張は認められない。

したがつて、第五引用例及び第六引用例の記載と本件発明の特許出願前から周知であつた傾斜平面状の直進部とから本件発明の車路の構成要件は容易に想到し得るものである旨の原告の主張も認められない。

6 原告は、本件発明の効果とされる、狭いスペース内において、効果的に昇降しうる走行車路を形成しうるとともに、走行フイーリングを確保できる等の効果について、「敷地面積や車路の勾配等に数値限定があるならばともかく、第五引用例及び第六引用例記載のものも本件発明に優るとも劣らない効果を奏するものであり、特に土地の有効利用の点から考慮すれば、第五引用例及び第六引用例記載のものの方がはるかに優れている。」旨主張し、また、傾斜平面状の直進部の施工が容易であるという効果につき、「従来の立体駐車場から得られる効果と比べて、顕著に優れた効果であるとはいえない。」旨主張し、したがつて、本件審決が認定した前記の各効果は、いずれも本件発明特有の効果ということはできない旨主張する。

(一) 成立について当事者間に争いのない甲第二号証(本件発明の特許出願公告公報)によれば、本件発明の明細書には、本件発明の目的及び効果に関して、次のとおりの記載があることが認められる。(別紙本件発明図面参照)

(1) 車路ばかりでなく、駐車区にも昇り勾配をつけた、傾床型自走式立体駐車場は、昇降のための専用傾斜路がないので駐車効率および運転フイーリングがともに良いことが一般的に認められている。従つて、傾床型駐車場の採用についての多くの要請があるが、在来の構造では敷地面積が狭すぎて傾床型の採用を断念しなくてはならない場合がある。すなわち、傾床型駐車場では、駐車の危険度および難易度を考慮すると、駐車区の昇り勾配はだいたいtan六%以内であることが望ましく、車路の昇り勾配についてはだいたいtan一七%以内であることが望ましい。勿論、駐車区の長辺方向、すなわち駐車する方向については無勾配であることが望ましく、またフロア相互の高さ寸法(階高寸法ともいう)は下限が規定され、通常は三・〇五m程度に設定されているのである。従つて、敷地によつては上記の適正範囲(「通正範囲」とあるのは「適正範囲」の誤記と認められる。)の勾配よりも急勾配にしなくては所定の階高寸法が得られないということがあり、このことによつて傾床型駐車場の採用が無理であるとされるのである。本発明の発明者は、傾床型駐車場の広範な採用を計るべく、一定規模における斜床型駐車場の傾床勾配を緩和し、或るいは狭少な敷地に対する斜床型駐車場の採用を可能ならしめようとする、一貫した設計思想の基に、現在に至るまでに多くの成果をあげてきた。(甲第二号証一頁2欄七行から三三行まで)

(2) 本発明は第3図に示した第三例のものをさらに改良し、傾床型としては完成形態とも云える、従つて、敷地の利用効率がもつとも秀れ、狭少な敷地に対しても採用することができ、或るいは広い敷地に対しては勾配の緩和が極めて容易に実施することができる。傾床型駐車場におけるフロア構造を提供することをその目的とするものである。

(甲第二号証二頁3欄三六行から四二行まで)

(3) なお、車路3におけるUV区間、WX区間、それにYZ区間の内側のtan一三・八一%の勾配は決して問題となる程の勾配ではないが、アウトサイドパーキングエリヤ2のAB区間、GH区間それにMN区間の勾配を少しゆるやかにしてやれば、tan一三・八一%よりも可也りゆるい勾配とすることができ、実際の施行ではこの方法が実施される。勿論これによつて、車路3の四個所のコーナー部5の勾配も緩和されることになり、車路3全体の運転フイーリングもさらに向上することになる。(甲第二号証三頁6欄四〇行から四頁7欄六行まで)

(4) 本発明は、車路については、全体に昇り勾配を付けかつ、それを矩形の螺旋状に旋回連続させたもので、階高寸法を上昇するのに車路の全域を利用したものであるから、局部的な勾配部分で階高寸法を上昇する従来のものよりも、車路の勾配をゆるやかにでき、この勾配を例えば、許容限度のtan6%で一定のものとすれば、車路の全長が短くても良いことになり、駐車場の敷地面積がより狭少でも良いことになる。とくに、車路の昇降勾配を一対の傾斜平面状の直進部と、一対の傾斜曲面状の直進部と、四つの傾斜曲面状のコーナー部とに対し合理的に配分してフロアを昇降するように構成したものであるから狭いスペース内において効果的に昇降しうる走行車路を形成しうるとともに、走行フイーリングを確保することができる。勿論、敷地面積が広い場合には、車路の全長を長くとることができるから、それだけ勾配を緩和させることができることになるのである。(甲第二号証四頁7欄二三行から8欄一四行まで)

(二) 右認定の事実によれば、本件発明は、前記本件発明の要旨のようなアウトサイドパーキングエリヤとインサイドパーキングエリヤを有する傾床型自走式立体駐車場において、右(一)(1)記載のような、望ましい駐車区の昇り勾配、望ましい車路の昇り勾配、駐車区の長辺方向については無勾配であることが望ましいこと、階高寸法の下限等の要請のもとで、<1> 敷地の利用効率がもつとも秀れ、<2> 車路については、全体に昇り勾配を付けかつ、それを矩形の螺旋状に旋回連続させたもので、階高寸法を上昇するのに車路の全域を利用したものであるから、局部的な勾配部分で階高寸法を上昇する従来のものよりも、車路の勾配をゆるやかにでき、この勾配を例えば、許容限度のtan6%で一定のものとすれば、車路の全長が短くても良いことになり、駐車場の敷地面積がより狭少でも良いこと、敷地面積が広い場合には、車路の全長を長くとることができるから、それだけ勾配を緩和させることができる、<3> 特に、車路の昇降勾配を一対の傾斜平面状の直進部と、一対の傾斜曲面状の直進部と、四つの傾斜曲面状のコーナー部とに対し合理的に配分してフロアを昇降するように構成したものであるから狭いスペース内において効果的に昇降しうる走行車路を形成しうるとともに、走行フイーリングを確保することができる、との各効果を奏するものであることが認められる。

本件審決が、本件車路の構成により、狭いスペース内において、効果的に昇降しうる走行車路を形成しうるとともに、走行フイーリングを確保できる等の作用・効果を奏するものと判断したのも右と同趣旨であるものと認められる。

なお、前記(一)の(1)、(3)、(4)の記載によれば、右の「走行フイーリングを確保する」とは、車路の昇降方向の勾配、左右方向の勾配を相対的にゆるやかなものとして、運転者に、不安感、不快感を与えず、敷地面積その他の要請の下で実用上支障なく運転できる状態をいうものと認められる。

(三) 前記1認定の事実によれば、第五引用例記載のものも右(二)の<2><3>の効果を奏するものであることが認められるが、前記甲第八号証によれば、第五引用例記載のものは、車路が三種の部分によつては構成されていないことのほか、少なくとも、車路の内側にインサイドパーキングエリヤを備えていない点で本件発明と異なるものであることが認められ、本件発明と異なる前提の下での効果であつて、第五引用例記載のものも本件発明に優るとも劣らない効果を奏するものであるとも、特に土地の有効利用の点から考慮すれば、第五引用例記載のものの方がはるかに優れているとも認められない。

また、前記3認定の事実によれば、第六引用例記載のものも右(二)の<2><3>の効果を奏するものであることが認められるが、前記甲第九号証によれば、第六引用例記載のものは、車路が三種の部分によつては構成されていないことのほか、少なくとも、車路の内側にインサイドパーキングエリヤを備えていない点で本件発明と異なるものであることが認められ、本件発明と異なる前提の下での効果であつて、第六引用例記載のものも本件発明に優るとも劣らない効果を奏するものであるとも、特に土地の有効利用の点から考慮すれば、第六引用例記載のものの方がはるかに優れているとも認められない。

なお、前記甲第九号証(第六引用例)によれば、第六引用例には、第六引用例記載のものの「支柱14間の空間16、17を占める床部はほぼ水平であるために、開口18、19、20が形成されている。」(甲第九号証訳文一頁本文二一行から二二行まで)との記載があることが認められるが、右中心支柱間の床部と開口で隔てられていない車路との間に必然的に生ずる段差がどのように処理されているかの説明もなく、又、右中心支柱間の床部がインサイドパーキングエリアであることを認めるに足りる証拠もない。

7 よつて、本件審決の認定に係るその余の効果について判断するまでもなく、原告の予備的取消事由も理由がない。

四 以上のとおり、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

〔編注1〕本件発明の要旨は左のとおりである。

三六〇度の旋回走行によつて一フロア分の高さを昇降するように上下方向に対し螺旋状に連続する車路に沿つて駐車スペースを設けてなる傾床型駐車場を構成する基準階のフロアにおいて、ほぼ等勾配に形成された内外の路縁をもつ一対の相対向する傾斜平面状の直進部と、不等勾配に形成された内外の路縁を持つ一対の相対向する傾斜曲面状の直進部と、前記各直進部の勾配を整合する傾斜曲面をもつ四つのコーナー部とにより矩形状に螺回するように形成された車路にはこの車路の外側周辺に対し直交状に外接して並列された駐車スペース群よりなるアウトサイドパーキングエリヤと、前記直進部の内方に並列された駐車スペース群よりなるインサイドパーキングエリヤとを臨設するとともに、前記アウトサイドパーキングエリヤには車両が車長方向に傾斜されずに駐車されるように緩勾配を車幅方向に対応する方向に対し一方的に付与したことを特徴とする傾床型自走式立体駐車場におけるフロア構造。(本件発明につき、別紙本件発明図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙 本件発明図面

<省略>

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別紙 第一引用例図面(1)

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別紙 第一引用例図面(2)

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別紙 第五引用例図面

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別紙 第六引用例図面

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